伊藤博之、柴田さなえ著「男と女のワイン術2杯め」

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このタイトルの一作目(一杯目)が出版されてから、まだ一年経っていません。一作目が売れたからといって、少し早過ぎはしませんか。二匹目のドジョウはそう簡単にはみつかりませんよ、と思って読み始めました。

 

編集者が凄いのでしょうか、それとも書いた二人が賢いのでしょうか。一作目と全く切り口が異なります。同じ部分は、ワインをあまり知らない人を対象にしていることくらいです。

二作目は、ワイン素人がどのように選ぶか、自分の好みを見つけるかが主題です。非常に分かり易く、丁寧に解説されています。

 

この本を読み、これまで殆ど飲まなかったニューワールドのものを飲むようになりました。しかも南米産のものを。それもスーパーで買って。

また、2000円以下のワインを買うことはありませんでしたが、1000~1500円のものも試すようになりました。

そして、それらの中に幾つかのお気に入りを見つけまし。

伊藤さん、ありがとうございました。サインも。

 

 

 

「この2年ほどで、著者の近所の、東京郊外のスーパーでも、3軒がワイン売場を拡充し、約50軒の調査でも、10年前に比べたら格段にワイン売場の面積が広がっていることがわかりました。

ビールで利益が出にくくなった酒類流通において、いまスーパーも利益率の高いワイン市場の拡大を狙い、販売手法で試行錯誤を繰り返しているという話も時折耳にします。

その努力や工夫はメーカーや輸入業者も同じで、卸業者や小売店の販売員の方が、ワインにおいて幅広い知識を持たなかったとしても、ワインに親しみを持ち、『このワインならプッシュできる!Jと販売できるようにサポートをしているそうです。

スーパーやコンビニなど、チェーン展開する小売店でアルコール類を販売できるようになって、2015年で10年が経ちます。スーパーにアルミ缶や瓶がずらりと並ぶその光景はいまでは当たり前ですが、それまではスーパーはお酒を売る経験がなかったのです。

大幅な規制緩和により、2005年9月からは申請して免許さえ取得すれば、アルコール類を販売できるようになり、これはスーパー業界にとって待ちに待った、売り上げアップの機会でした。当時、お酒は6兆円マーケットと言われ(現在は5兆円)、その莫大な利益を手にするチャンスだったわけです。

どのチェーンも一勢にアルコール類の売場を設定し、当時は、ビールやパックの日本酒などマスマーケット向けの商品が、置けば自動的に売れる状況となりました。それまでは『酒屋』と呼ばれる場所でしか買えなかったものが、日常の買い物のついでに購入できる便利さを考えると、当然のことです。

しかし10年が経ち、第三のビールの誕生や、競争相手である酒屋のディスカウント化などで、スーパーを取り巻く状況も変わってきています。

そこで今後の、アルコール類の主力商品として目が向けられたのが、ワインです。先ほどもお話ししたように利益率が高く、また日本の酒文化を考えると未開のマーケットとも言えるワインは、まだまだ開拓の余地があるのでしょう。近年のワインブームも手伝っているかもしれません。」

 

「海外の多くのスーパーでは、ワインは原料のぶどうの品種ごとに並べられています。

急に生産国別、品種別と言われても、それが何を示すのかよくわからないと思いますが、これがけっこう重要なポイントで、この本のテーマにも関わってきます。

第2章以降で、ワインの生産国やぶどうの品種が味わいにどのように影響するかを詳しくお話ししますが、ここでは大雑把に、ワインが品種ごとに陳列されていると、どのように選べるかをお伝えしておきます。

ワインの個性を左右する大きな要因のひとつは、ぶどうの品種です。酸味が印象的な品種、果実の味わいがたっぷりある品種。香りが華やかな品種などと、それぞれに特徴があります。すなわち、品種ごとに陳列されると、ざっくりではありますが、味わい別の陳列になるため、消費者が味わいのイメージを持ってワインを選ぶことができると言えます。

先ほど、日本のスーパーは本部が一括で仕入れるワインを決めるとの話をしましたが、陳列の棚割にも、本部とワインを取り扱うメーカーとの関係などが影響しているのかもしれません。」

 

「私たちが気になった陳列例をいくつかご紹介します。

*Y/ひとつのワインをプッシュして、多面展開している。これだけでも、初心者にとっては『おすすめ』がわかりやすいが、さらに季節ごとやイベント、または月替わりなどで、適切なワインをセレクトして展開しているのであれば、季節やイベントに合った味わいを知ることができるのでうれしい。

*〇/ワイン棚の陳列のスタイルが店舗裁量なのか、同系列でも店ごとに異なる。地域特性に合わせて陳列を変えているのか。おすすめを別枠に設けるスポット売りも多く、推薦コメントが手書きされたPOPも多数。ワインがわからなくても、選ぶ楽しみがありそう。

*I/取り扱い数、種類が多いだけでなく、デイリーワインから、グラン・ヴアンと呼ばれる、いわゆるフランスの超高級ワインまでが揃っている。この1店舗で、同じ品種や生産地などの価格帯の異なるワインを買うことができるため、さまざまなワインレベルの消費者を取り込みやすく、また時と場合によってランクが違うものを試せるのも利点。

 

これらの店舗が仕掛けていることはどれも、消費者がワインに手を伸ばしやすくするもので、頑張ってワインを売ろうとする姿勢だと思います。このような店舗には、いまはワインの売り上げが直接利益向上につながっていなくとも、じっくりと経過観察を重ね、試行錯誤を繰り返していただき、ぜひ日本のワインマーケットの拡充を担ってもらいたいと願うばかりです。

私たちはこれまでのワイン経験のなかで、『ある一線』を越えると急激にワインに近づく人たちを見てきました。それは、ある味わいとの出会いなのか、ともに飲んだ人との思い出がそうさせたのか、人それぞれですが、スーパーの方々の頑張りが、多くの人に一線を越えさせることがあるはずです。

話が少し逸れましたが、ほかにも、いくつかの店舗で見られたのが、クロスマーチャンダイジング。2つないし3つの商品を組み合わせて相乗効果を狙う販売方法で、ワインの場合は、ワイン売場だけでなく、お肉やチーズなどのワインと相性がよいとされる食料品売場で、特定のワインを展開する販売方法です。これはワインを売るための戦略であると同時に、ワインは食事と合わせて楽しむもの、というひとつの文化的な提案とも受け取れます。ワインは食事と合わせれば、もっとおいしくなります。

ワインを買うだけであれば、ディスカウントリカーショップやコンビニエンスストアでもできます。しかし、今夜の献立や合わせる料理の材料とともに、ワインが選べるのはスーパーだからできること。この点を活用しない手はありません。」

 

「最初に少し、ワインの原料であるぶどうを育てるのに重要な気候の話をしておきます。

ワイン造りにおいては、原料となるぶどうがなによりも大切。そして良質なぶどうを育てる決定的な要因は気候です。

なかでも、①気温、②日照量、③雨、が重要。

①気温は、ぶどうの熟し度合いを決めます。気温が高い土地で育つぶどうはよく熟して甘くなり、その逆で、冷涼な土地だとぶどうは熟しにくいため、酸っぱくなります。生食用フルーツと同じですね。

この気温を決定づけるのが、②日照量。ただ平均気温が高すぎるのも、ワイン用のぶどうにとっては好ましくありません。酸味が少ないぶどうに育ってしまうからです。また、ぶどうの実が育つ夏が暑いことは基本ですが、昼夜の寒暖差がはっきりしていることも条件。すると酸がぶどうにしっかり残ります。

この章のはじめにお話しした通り、ワインにとって酸味はとても重要な味わいのひとつ。ぶどうに酸がないと出来上がったワインはしまりがない、ぼんやりとした味わいになってしまうからです。ほかにも、日照量が少ないと、ぶどうの色、すなわち仕上がったワインの色は薄く、渋味も薄くなってしまいます。

そして③雨ですが、これがまた大きなポイント。結論から言うと、雨の多い土地、そして年は、ワイン用のぶどう栽培には厳しい条件となります。とくに北半球では、実をつける6月から、果実が大きくなる8、9月、収穫前の10月までの降雨量は、その年のワイン造りに多大な影響を及ぼします。

生食用のぶどうは、実が大きく、皮が薄く、酸味は少なく甘みが強いものがおいしいですね。でも、ワイン用のぶどうはその反対。実は小さく、皮が厚く、甘みも酸味があるものが◎なのです。

雨が多くて水分をたっぷり吸ったぶどうは、実が大きくなり、甘さや濃さ、酸味も水分によって薄まってしまうため、理想的なワイン用のぶどうではなくなってしまうのです。

『良いヴィンテージ』『悪いヴィンテージ』との言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、それは雨の多い少ないが大きな要因として語られます。」

 

「ブルゴーニュワインの場合、『同じ品種で造ったら味が似通っているのではないか?』と思う方もいるでしょう。これはもっともな疑問だと思います。

そこで、ボルドー地方とブルゴーニュ地方のワイン造りの違いからこの疑問の答えを探ってみましょう。

まずは、ボルドーのワイン造りから。ボルドー地方はいくつかのワイン産地からなりますが、各々の地区で一番よく育つぶどう品種から醸したワインを基軸にするという考えがあるようです。これは主に、土壌や土質の違いによるところが要因として考えられます。

ボルドーワインは、基本はいくつかの種類のぶどうを混ぜてワインを造るとお話ししました。単体の品種、要はある品種100%で造ったワインがないことはないのですが、ひとつの品種の足りない部分を。ほかの品種のワインをブレンドして補い、よりよいワインに仕立て上げています。

具体的にどういうことか、赤ワインの場合で説明しましょう。カベルネーソ・ヴィニョン種を主体にしているワインは、味わいも渋味もしっかりと格調的です。そこにふくよかさを出すためにメルロー種で肉付け、カベルネ・フラン種は香り付けの役割を担います。また、メルロー種を主体にしているワインは、なめらかさを追求しつつも、ほかの品種でアクセントを加えます。これらふたつの中間のスタイルで、バランスを追求したタイプのワインも存在し、細かく言うとキリがないくらいです。

上級ワインは、これらの方法で隣のシャトーとは違う個性を表現しようと注力しているように見えます。

一方、白でも赤でも、ほとんどのワインが1種類のぶどう品種で造られているブルゴーニュ地方では、ぶどうの質がワインの味わいに影響を及ぼすと言われています。その理由は次の通りです。」

 

「ブルゴーニュ地方では、ぶどう畑が広がるのは、ボルドー地方よりも起伏のある丘陵地や、その麓あたりです。そのため、丘の高いところと低いところとでは、日当たりなどの気候条件をはじめ、土壌の成分や構成、水はけなどの性質も大きく異なります。

高級ワイン用のぶどうを栽培する特級畑が、切れ切れではありますが、丘の中腹のとある等高線付近に並んでいる地図を見れば、みなさんにもおわかりいただけると思います。そのあたりに集中しているのが、ぶどう栽培によい条件の畑と考えられているわけです。

要するに、ほとんどが1種類のぶどう品種で造られるため、その原料の質が味わいを左右するとの考えでワイン造りが行われているということです。

ブルゴーニュ地方では、ひとりの生産者がさまざまな畑に自分の区画を持っています。そのそれぞれ違う畑のぶどう(品種は同じ)で造った同じ生産者のワインを並べて飲んでみると、『なるほど、同じ品種を使っていても、細かい環境の違いでぶどうの味が変わるのかな』と感じることもあります。ただし、その2種のワインを飲み比べるのではなく、単体で味わったときに、はっきりと違いを言えるかは専門家でも難しいようです。

それでもブルゴーニュ地方の多くの生産者が、自分の関わる土地や畑でしか表現できない個性を求めて栽培や醸造に心を砕いていることは確かなこと。ワインマニアと呼ばれる人たちがブルゴーニュ地方のワインにはまる理由も、ここにあるようです。

このようにボルドー地方とブルゴーニュ地方ではワイン造りの姿勢がまったく異なりますが、ともに歴史的にも銘醸ワインを生み出してきたフランスの二大生産地。その違いは興味深いところと言えるでしょう。」

 

「イタリアの温暖な地中海性気候はぶどう栽培に適し、半島のほぼ全域でワインが生産されているのですが。その土地ごとの気候によってワインの風味は実にバラエティに富んでいます。

ここまでフランスとチリの項で、天候や気温がワインの果実味の強さに影響することはお話ししましたが、一国のワインを飲み比べて差を感じやすいのがイタリア。この差を生むのが、先はどの会話で出た『南北に長い地形』です。

イタリアの代表的な白ワインとして『ソアヴェ』をご紹介しました。

白ワインは、育った環境の特徴が、味わい、とくに果実味と酸味に出ます。もちろん品種による違いもありますが、環境で分けるとより大きな違いを感じやすいのです。

涼しい地域のぶどうをワインにすると、フルーツのニュアンスである、どこか甘い感じの果実味が少なく、酸味を感じやすい辛口になります。

一方、温暖な地域のぶどうで造るワインはその逆で、フルーツのニュアンスが多い、どこか甘い感じのある果実味を感じるワインに仕上がります。

冷涼な気候であればあるほど果実味が滅って辛い感じが増し、暖かいほどに果実味が強くなるのです。

『ソアヴェ』に話を戻します。このワインの産地であるヴェネト州は、イタリア北部に位置し、国内では比較的冷涼な地域です。そのためワインの味わいは、イタリアワインのなかではフルーツのニュアンスが少ないタイプになるわけです。」

 

「『ソアヴェ』を飲んで、果実味、甘い感じが物足りないと思ったら、どうするか。結論から言うと、スーパーにあるイタリアの違う白ワインを買ってみるだけで、その味わいに近づけるはず。

雑なアドバイスに聞こえるかもしれませんが、きちんと理屈があります。

繰り返しになりますが、『ソアヴェ』の産地ヴェネト州はイタリアでもかなり北側。ということは、スーパーに並ぶイタリアの白ワインで、『ソアヴェ』以外のものを買うと、『ソアヴェ』より果実味が強くなる可能性が高いわけです。なぜって、ヴェネト州がかなり北側の産地であることに加え、より北側のワインは、スーパーで取り扱いがないこともないのですが、可能性は低い。すなわち、スーパーでは、南側の地域のワインをチョイスしている確率が高くなるからです。

ややくどくなりましたが、これがイタリアの白ワインにおいて『ソアヴエ』が指標になる理由です。おわかりいただけたでしょうか。」

 

「『ソアヴエ』を例に挙げて、南北の果実味の違いについてお話ししてきました。もうおわかりかもしれませんが、この理屈はイタリアだけに当てはまることではありません。

ワイン用のぶどうは、気温が高ければ熟して果実味が強いワインになり、気温が低いと酸味を感じるワインになるとお話ししました。チリのワインが豊かな果実味であることも、温暖な気候が理由も同じでした。

この気温の高低に関わるのが、緯度です。赤道から遠いほどに緯度は高く、気温は低くなります。これはいままでお話ししてきた、冷涼な生産国、温暖な生産国を判断するひとつの目安になります。

ただし、ぶどうの味わいの要素を決定するのは、緯度だけではありません。標高の高低、地形、ほかにも海や水辺からの距離、そこに流れる寒流、暖流などの要因が絡み合います。そのため一概には言えませんが、果実味の強弱を判断軸にワインを選ぶ際には、緯度を目安にして、その生産地が冷涼か温暖かのイメージをなんとなくつけるのも、ひとつの手です。

また興味深いことに、赤道を中心に等温線を引いた上の世界地図を見ると、ワイン産地が一定の場所に集中していることがわかります。北半球ではほぼ北緯30度から50度、南半球では南緯20度から40度のエリアです。温暖化の影響で状況は変わりつつあるようですが、ワイン用のぶどう栽培に適した気候に、緯度が関わっていることは間違いなさそうです。」

 

「ここまで白ワインの話をしてきました。

では、赤ワインには当てはまらないのでしょうか。

果実味に関しては、考え方は同じです。

イタリアの赤ワインとしてご紹介した『キアンティ』で考えてみます。

『キアンティ』の産地はトスカーナ州、ちょうど半島中部です。ですので、もし『キアンティ』より果実味が感じにくければ、トスカーナ州より北(スーパーではなかなか売っていませんが)、『キアンティ』より果実味が強いと感じれば、トスカーナ州より産地が南である確率が高くなります。

しかし、酸味は一筋縄にはいきません。

『キアッティ』は、『ACボルドー(赤)』と比較すると決定的に違うのが酸味だとお話ししました。気温で考えるなら、ボルドーの方がやや緯度が高く、より北側に位置するので、酸っぱいはずです。でも違う。

なぜなのでしょうか。

赤ワインの場合、酸味を生む要因はいくつかありますが、大きくは品種に由来しています。

『キアンティ』を造るぶどうの品種は、サンジョヴェーゼ種。『ACボルドー(赤)』の主要原料であるメルロー種より、酸味が強い品種なのです。酸味の強弱は仕上がるワインに反映されるため、気候に関わらず、『ACボルドー(赤)』より『キアンティ』の方が酸味を感じやすいというわけです。

ちなみにサンジョヴェーゼ種は、北部と南部の一部の州を除く全州で栽培され、イタリア国内で最も収量が多い品種。そのサンジョヴェーゼ種のワインの産地が、イタリアでも北側なのか南側なのかを判断するには、『キアンティ』の果実味を指標にすると、イメージがつきやすくなりそうです。」

 

「これらの用語解説は後にまとめるとして、どうして同じ種類のワインで、価格がこんなにも違うのかが気になります。ワインの値段はどのように決まっているのでしょうか。

それを決めるのは。ぶどう栽培です。ぶどうの樹は春になって芽が吹いて葉が開き、茎を伸ばしていきますが、生命力が強く、放っておくとどんどん実をつけてしまいます。そのため、ワイン用のぶどうは剪定をし、房をある程度の数まで絞ります。少なくなった房にぶどうの樹が吸い上げる養分を集中させるためです。

では、ここで考えてみましょう。

ワイン一本を造るのに、必要なぶどうは1~1・2kgと言われています。房にするとだいたい2房です。

同じ2房でもその質を見てみると、1本の樹になる房が少ない方が養分は凝縮されています。しかし、たくさんの房がなる樹と、房が少ない樹が、同じ面積の畑に同じ本数だけ並んでいるとしたら。

仕上がるワインの本数は、房が少ない樹が植わっている畑の方が、少なくなります。

もうおわかりですね。単位面積あたりの収量を抑えた畑のぶどうからできたワインの方が高くなるのは当然です。」

 

「もうひとつの理由として挙げられるのが、ぶどうの樹の年齢、樹齢です。ぶどうの房は、樹を植えてからすぐにはならず、初めて実をつけるのは3~4年目。一方、高級ワインを仕込むぶどうがとれる樹の平均樹齢は40年以上です。

高齢のぶどうの樹がよい実をつける理由は、根が地中深く伸び、多層となった土壌からさまざまな養分を吸い上げ、それが果実に反映されるからだと言われています。高い樹齢のぶどうの方がたいていの場合、質がよく、価格も高いのです。

これらの理由は、イタリアワインだけでなく、ほかの生産国でも同じこと。チリでは同じ会社が、価格の異なるブランドを展開していましたが、その違いの理由もほぼ同様と言ってよいでしょう。

『キアンティ』はじめ、スーパーのワインの価格は、およそ3つに分類ができます。

*1000円でお釣りがくる価格

*1000~1500円

*1500円以上

この価格の差は、ぶどうの持つ養分と収量にあるのです。

実際に味わってみると、何が違うのか。それは、飲み応えです。養分が凝縮されたワインは、旨みが濃く、余韻が長い。1000円未満、1000円以上、1500円以上と、500円を多く出すごとに『飲んだ気』が増していくでしょう。

いつも購入する金額が決まっている方も多いと思いますが、この機会に週末は少し奮発して、価格の差を意識して飲んでみると、また違った発見があるかもしれません。」

 

「基本的な価格が決まる要因をおわかりいただけたかと思いますが、ワイン選びにおいて大切なのは価格だけではありません。そう『好み』ですよね。高価なことは、好きな理由にはなりません。

少しご面倒ですが、チリワインの項、P101のグラフをもう一度見てみてください。曲線が表すのは果実味だとお話ししました。では、曲線内の面積全体が表すものはなんでしょう。

それは『おいしさ』です。ヨーロッパのワインは口に含んだ瞬間の印象は薄く、味わいのピークは派手ではありませんが、面積で見るとニューワールドのものと変わりはありません。

要するに、どちらが優れているというわけではなく、味わいの軌跡が違うわけです。ヨーロッパとニューワールド。どちらの軌跡が自分にとって心地がよいか。まさにそれが『好み』でしょう。

実はこの曲線が描く形、ワインの価格が安価でも高級でも、さほど変わりはありません。高級になればなるほど、縦軸・横軸ともに伸びていき、それとともに『おいしさ』の面積全体が大きくなっていきますから、価格が大きな判断材料となることは間違いありません。

しかし、好みかどうかは別問題です。『キアンティ』だって、そこそこの価格でおいしいと感じるものもあれば、”Classico”の文字がある価格の高いものでも、そう思わないものもあるでしょう。また同じ価格で、異なる生産者の『キアンティ』にしても、同じことが言えます。自分にとっての、アタリ、ハズレはあるはずです。」

 

「それは料理とワインの完璧な相性論ではなく、『料理を引き立てるワイン』もしくは『ワインを引き立てる料理やつまみ』、このどちらの方法で楽しむのかという考え方です。

どういうことかと言うと、料理をメインに展開するならば、その料理を打ち負かすような、強い味わいのワインは避け、一方『今日はこの1本を楽しみたい!』というワインを選んだのなら、そのワインより風味の強い食材や料理は避ける、という方法です。

例えば、鯛の刺身。繊細な香りと淡白な味わいで、まさに日本人の舌を楽しませる料理です。それにチリなどニューワールドの果実味が強い赤ワインを合わせたらどうでしようか。口中の感覚を想像してみてください、ワインが料理を打ち負かしてしまいます。ちなみに、生魚とワインを合わせるのはなかなか難しいのですが、ここは想像がつきやすい例えとしてお話ししました。

では、ワイン主体の場合は? そんなときは、先ほどお話しした『色を合わせる』方法は意識しつつ、調味料の量を搾えめにした味付けにします。食べものが口に入ったままでワインを飲むのでなく、食べものを飲み込んだ後くらいにワインを飲むか、一回に口に入れる料理の量を少なくするとよいでしょう。

もうひとつ、料理や素材自体にクセがある場合の、ワインの合わせ方はこうです。

強い素材には、同じくらい強い風味のワインを合わせるのです。すると、互いが互いの強さを緩和します。強い風味のワインを選んでしまったときも、然り、強い風味の素材を合わせてみてください。

例えば、モツやレバーなどの内臓系。素材自体にクセがあるため、比較的風味の強いワインをもってきます。そうでないとモツなどの臭みが際立ってしまうからです。モツ煮込みと相性のよいお酒を考えてみてください。芋焼酎が代表格ですね。互いにかなりクセがある味わいですが、ともに食せば各々の出すぎた主張が打ち消し合って、感じにくくなります。

スーパーでワインと食材を買いそろえる際、『色』と『強弱』、この2つのポイントをちょっと意識してみてください。」

 

「ところで、『カバ』と『シャンパーニュ』は製法が同じだと、先ほどちらりとお話ししました。そもそも『カバ』の歴史は、カタルーニャ州のワイン生産者がシャンパーニュ地方で学んだ技術を持ち帰ったのがはじまりです。

その技術とは、タンクで一度発酵させたワインを瓶に入れ、糖分と酵母を加えた後、瓶内で再び発酵させる方法。瓶内二次発酵、別名を伝統的方式、シャンパーニュ方式などといいます。

この造り方による一番の特徴は、きめ細かく、なめらかな泡立ちです。

添加した酵母が瓶内の糖分を食べることで、再び発酵がはじまります。その際にアルコールとともに二酸化炭素が発生するのですが、瓶が密閉されているため二酸化炭素はワインに溶け込み、炭酸ガスとなります。これが、泡。炭酸ガスを人工的に注入するのではなく、発酵により自然発生したガスが熟成とともにゆっくりとワインに溶け込んでいき、きれることなく立ち上り続ける、非常に細やかな泡となるのです。

では『カバ』と『ジャンパーニュ』の違いはなんでしょう。

ぶどうの品種、収穫方法や収量、熟成の期間などいろいろありますが、やはり大きな違いは価格です。製法は同じですが、価格が安いもの同士で比べても3倍くらいの開きがあります。

その理由に少し触れてみます。

シャンパーニュ地方のぶどうは、地理、土壌、気候など独特な条件でほかのどの地域にもない個性を持ちます。そのせいもあり、ぶどう自体の価格が世界で栽培されるワイン用のぶどうのなかで最も高値。ワインジャーナリスト山本昭彦さんのシャンパーニュの本によると、2013年の平均価格は1㎏あたり5・8ユーロ。1本のワインに必要なぶどうは2房分の1~1・2㎏ですから、ぶどう代だけで1000円かかります。一方『カバ』のぶどう代は1ユーロしないそうです。

さらには、『シャンパーニュ』を造るにあたり定められた規定はかなり厳しく、細かいもの。ぶどうの収穫は必ず手で摘まなくてはダメですし、摘んだぶどうから搾る果汁の量も決められているし、熟成期間は最低でも15ヵ月以上。人件費もかかり、効率的な作業をのぞむのもなかなか難しい環境なのです。

長い歴史のなかで培ってきたそれらの技術が、『シャンパーニュ』の泡、香り、味わいを唯一無二のものにしています。」

 

「スパークリングワインに続き、本書ではスペインワインで初めて、熟成について触れます。

それは、スーパーに並ぶスペインワインの大きな特徴が熟成と言えるからです。

P141では、スペインワインはスーパーに並んでいるものでも、ぶどうが収穫されてから数年経っているものもある、とお話ししました。

なぜスペインだけ、こういったヴィンテージのワインが並ぶのか。先に答えをお話ししてしまうと。スペインワインは、木樽の中だけでなく、瓶詰め後に長期熟成させて出荷する傾向にあるから。そのため店頭に並んだらすぐに飲みやすい状態になっているものが比較的多いのです。

『リオハ』の主な原料ぶどうであるテンプラニーリョ種に関して言えば、頑なな渋味を持つために樽熟成を長く行います。タンニンの荒々しさや硬さをとり、丸くしてから飲むという狙いです。

買ってからでも何年も寝かせなければ飲み頃を迎えない、ボルドー産やブルゴーニュ産などの高級ワインとの大きな違いと言えるでしょう。

スペインでは、産地名付きのワインに関しては、国のワイン法で熟成年数による3つの分類が定められています。一番長く熟成させるものは合計60ヵ月以上、木樽内、瓶内の期間を合わせて5年以上の熟成を経て、6年目からようやく出荷に至ります。このワインには、『Grand Reserva(グランレゼルバ)』という表記が許されます。一番短くても24ヵ月、2年の熟成期間です。これが『Crianza(クリアンサ)』。もちろん、もっと短い熟成期間のワインもありますが、全体的に長期熟成の傾向にあるのがスペインワインです。先ほど紹介した『リオハ』は、独自でワイン法の期間よりも長く定めているものがあるほどです。

重要なのは、熟成させるとワインはどうなるのか、です。簡単に言えば、まろやかさが増し、飲みやすくなります。

先ほど少しお話しした通り、木樽で熟成させる時間が長いと、木目を通じて入る空気と触れ合い、ワインはゆっくりと酸化が進みます。『ワインの事典』で『熟成』を調べてみると、『発酵終了直後の濁りなどの不安定な外観、不快な匂い、荒々しい味が時間の経過と共に消失し、色調の安定化、香味の複雑さと柔らかさが増し、付加価値を上昇させる劇的な変化が起こる』と書いてあります。先ほど『リオハ』の果実味と渋味の味わいの説明で、『熟成したものは感じ方が変わる』としたのは、これが理由であり、また、この『付加価値を上昇させる』というのが、熟成期間の長さの違いが反映される価格差です。」

 

「甘ロワインは、砂糖で甘くしているわけではありません。そこで少し、ワインの製法について、どうして辛口になるのか、甘口にするにはどうするのか、のお話をします。

ぶどうにはもともと糖分がありますね。ぶどうの搾り汁に酵母を添加すると、その酵母が糖分を食べてアルコールと二酸化炭素とに分解します。これがアルコール発酵で、果汁をしっかりと発酵させて糖分がすべてアルコールに変わると辛ロワインになります。

ここまでが辛ロワインについて。

次は、辛口の製法をベースに甘口を考えてみます。

糖分がすべてアルコールに変わったものが辛口ですから、甘口は果汁のもともとの糖分が残ったものと言えます。糖分を残すには、酵母が糖分を食べ尽くさないようにすればよい、すなわち、アルコール発酵を途中で止めればよいわけです。

これが、まさにドイツの甘ロワイン。

先ほど、ドイツはぶどう栽培の北限だとお話ししました。寒い地域で育ったぶどうですから、酸度がかなり高いわけです。通常の製法でワインを造ったのでは、かなり酸っぱくなってしまうため、バランスのよい味わいを求めた結果、もともとの糖分を残すという方法をとったのです。

ドイツだけでなく、フランス、イタリア、スペイン、ハンガリーなどでもこの方法で甘口ワインは造られています。

ほかにも辛口に仕上げたワインに、そのもとである果汁を加えて甘味の調整を行う方法もあります。これはドイツで開発された方法です。

北の産地ドイツのワイン造りは、生産者の工夫の賜物です。それは製法だけでなく、ぶどう畑からもわかります。

気温が低いドイツでは、太陽の光をめいっぱい有効利用するために、川沿いの急斜面に畑が連なっています。そうすれば効率よく日光が当たるだけでなく、川からの照り返しも利用できるから。かなりの急斜面なので作業は全て人の手、車などの機械が入れるような環境ではないのです。

ほんのり甘く、人々を癒やすやさしいワインが、このような厳しい環境のなかで生まれることを知ると、さらに味わい深く感じてしまいそうです。さあ、飲んでみましょう。」

 

「次は、造り手の違いについて考えます。

例を挙げて言うと、チリの『サンライズ』のシャルドネ種と、チリの『コノスル』のシャルドネ種の飲み比べ。前者の生産者はコンチャ・イ・トロ社、後者はヴィーニャ・コノスル社と造り手が違うシャルドネ種です。

要するに、生産国も品種も同じですが、造っている会社や人が違う、その比較です。

チリのほかにスーパーに比較的並んでいるもので言うと、フランスの『ACボルドー(赤、白)』や『ACブルゴーニュ(赤、白)』が、生産者が異なる2種を買いやすいのではないでしょうか。もちろん種類の多いスーパーでは、これら以外でも見つけられると思います。この比べ方がわかると、漠然と見ていた棚の景色が少し変わりそうです。

さて、造り手の違いは、ワインにどのように反映されるのでしょうか。2人が同じレシピで料理しても、違う味わいに仕上がる経験はどなたでもお持ちでしょうから、観念的にはおわかりになると思います。ここでは、もう少し具体的にその違いを説明します。

ワインには『スタイル』という言葉があります。これには生産者の哲学や意志が込められ、畑の管理、ぶどう栽培から醸造、発酵や熟成まで、ワイン造りの全行程に反映されるものです。

どんなぶどうを育てて収穫し、発酵のさせ方、酵母は野生酵母または培養酵母を使うのか、発酵の温度は? など選択肢とその組み合わせは挙げたらキリがありません。

そして果汁の発酵が終わった後は熟成に入るのですが、瓶詰め前に寝かせて休める際に使うのは、木樽か、それともステンレスタンクのままなのか、寝かせる期間の長さ、さらにフィニッシュにほかのワインをブレンドするのかなど、瞬間瞬間、ひとつひとつのシーンに生産者の哲学が反映され、ワインの味わいをつくり上げます。

これが、同じ畑でとれたぶどうであっても、生産者によって味わいが変わる理由であり、ワインに『スタイル』が表れる理由です。そしてまた、個々のワインの個性ですので、どれがよくて、どれが悪いということはありません。

ひとつ言えるのは、スタイルはワインの価格にも反映されるということ。もちろん、ワインの価格は再三お話ししてきているように、ぶどう栽培の時点でだいたいの価格が決まりますが、手間や設備投資を要する分だけ、醸造や熟成の手間ひまなども加味されます。同価格帯といえども、若干の差はありますし、味わいのクオリティはある程度価格に正直です。

話は価格に移りますが、それぞれの価格帯で自分が納得できる味わいを見つけておくと、ワイン選びをハズす確率がグンと減ります。

*1000円でお釣り/デイリーワイン

*1000~1500円/週末ご褒美ワイン

*1500円以上/ちょっと特別な日に

スーパーのワインの価格帯なら、この3段階でクオリティの違いが堪能できます。デイリーワインなら、やはり価格は選択の大きな理由になりますから、もし安いものと高いものを飲み比べて、安い方が好きな昧、納得できる昧であれば、それに越したことはありませんよね。

ワインのスタイルの違いがわかりやすいものを求めるなら、やはり1500円以上でしょう。デイリーワインとは格の違いを感じられるワインですので、抜栓しがいがあるはずです。

スーパーでよく見かける、チリの『フロンテラ』と『サンライズ』、場所によっては『カッシェロ・デル・ディアブロ』もあるので加えます。この3種は、同じ生産者が造るブランドの違うワインです。生産者は、コンチャ・イ・トロ社です。

価格の安い順から言うと、『フロンテラ』『サンライズ』『ディアブロ』。チリの項P98では『価格で飲み分けをしてみましょう』という提案をしましたが、この価格差にも、単位面積あたりのぶどうの収量の差、そしてスタイルが反映されます。

同じ生産者のブランドの価格の違いを、ワインの世界では『レンジの違い』といいます。同じ生産者なら、レンジが異なってもスタイルは同じように思えるかもしれませんが、それは生産者によってまちまちです。標準品は普遍的に多くの人が楽しめるように仕立てる一方で、上級品では個性を打ち出す生産者がいたり、どのレンジにも統一感を持たせる生産者もいます。

もし機会があれば、コンチャ・イ・トロ杜とヴィーニャ・コノスル社の同レンジのものを3段階で飲み比べてみてください。計6種類のワインを飲むことになりますが、各レンジの個性はもちろん、より生産者それぞれのスタイルが見えてくるでしょう。」

 

「まずは、果実味から比べてみます。

飲む順番としては、ラングドックのシャルドネ種からです。理由は、先に比べたラングドック産とチリ産ですと、ラングドック産の方が果実味が少ないからです。チョコレートとみかん、どちらを先に食べるか。この理由と同じです。

ここで『あれ? 待って。品種の特性から言うと、ソーヴィニヨン・ブラン種の方が辛めのはず。シャルドネ種に比べて酸味が強くなるから、果実味が減って辛口に感じるって、言っていたよね』と思われた方。

たいへん鋭い疑問です。

品種の特性から言えば、果実昧が強いのはシャルドネ種のはずなのに、飲み比べの順番ではソーヴィニヨン・ブラン種の方が果実味が強いことになっている。どういうことでしょうか。

あえて、生産国も品種も異なるこの2つのワインを比べたのは、このお話をしたかったからなのです。この疑問の答えこそ、本書―冊を通してお話ししてきたことの総決算。これからお答えすることを知っておいてもらえれば、今後あなたがご白身でワインをチョイスするうえで、大きな判断軸を得たとも言える大切なことです。

種明かしに入る前に、先に飲むワインが、ラングドックのシャルドネ種の理由をもう少し説明します。もしチリのソーヴィニヨン・ブラン種の方が果実味が強いとすれば、後でラングドックのシャルドネ種を飲むとより辛く感じてしまいます。飲む順序を逆にして、ラングドックのシャルドネ種の後にチリのソーヴィニヨン・ブラン種を口にして、かなり甘く感じたとしたら、それはやはりチリのワインの方が果実味を感じるものだということです。

繰り返しになりますが、P204の飲み比べからもわかるように、生産地が同じであれば、ソーヴィニヨン・プラン種が酸っぱくて辛い、シャルドネ種が甘い感じがする、となるはずです。しかし生産国がまたがった場合は、少し考え方を変えなくてはいけません。フランスのように冷涼な生産国のワインは、果実味が減り、酸味が上がるからです。この章の冒頭、P193のブルゴーニュとチリのシャルドネ種の飲み比べの結果です。

これらのことを踏まえて比較してみると、冷涼なフランスのワインに比べ、温暖なチリのワインの方が甘いニュアンスが強く、酸味があったとしてもチリ産のソーヴィニヨン・プラン種の方が甘い感じがする、という結果が導き出されます。

もちろん、品種によって味わいは異なりますが、白ワインは気候が果実味、酸味の大まかな判断軸になりますから、国がまたがる場合は、品種よりも、まずは育った環境の違いから考えていく。比較の判断軸の優先順位は『生産地の気候』、次に『品種の特徴』となるわけです。」

 

「チリのソーヴィニヨン・ブラン種とラングドックのシャルドネ種でも、私たちが飲み比べた銘柄とは違うものを飲んだ場合、明らかにチリの方が果実味を強く感じるワインもあるでしょう。それとは逆に、ラングドックのシャルドネ種は木樽で香りをつけているものも多くあり、樽使いから来る味わいの厚みで、ラングドックの方が果実味が強いと感じる場合もあります。

ただ今回、実際に飲み比べた結果、酸味が強いと果実味が隠れてしまうけれど、薄ぼんやりした感じが果実味の差だということは体験できました。この体験だけでも今後、果実味に着目しやすくなったはずです。

これがワインを飲む楽しさの醍醐味でもあると思います。

もうおわかりのように、ワインには、ぶどう栽培の条件や、醸造過程での工夫などによって多くの個体差が生まれ、正直、単純に比較するのは難しい。ワインを飲めば飲むほど、そう感じます。しかし、飲めば飲むほどにわかることも増えてくるのも事実です。

私たちが本書を通して伝えたかったことは、ワインはたくさんの味わいがあるからこそおもしろく、そのおもしろさに近づくための方法が『判断軸を持つ』ということです。この軸を持っていたら、もし例外のワインに出会ったとき、例えば、チリワインが果実味が強いことを知っていれば、『チリのシャルドネにも、こんなにすっきりした辛口のものがあるんだ!』とおもしろがることができると思うのです。

本書でお話ししてきた判断軸は、ワインの蘊蓄を語るためのものではなく、みなさんにより一層『ワインつて、おもしろい!』と思ってもらうためのものと考えています。」

 

「そして、ここからお話しすることが、私たちがみなさんに最もおすすめしたいことです。

もし、自分が好きな味わいに出会ったら、しばらくそのワインを飲み続けてみてください。いろいろなワインに手を出さなくてもよいのです。

先ほど、ワインは触れるほどに経験値が上がっていくとお話ししたばかりなのに、矛盾していると思われるかもしれませんね。

なぜ1種類のワインをしばらく飲んでほしいか。それこそがワイン経験値を上げる方法だからです。

毎晩ビールを飲まれる方なら、想像がつきやすいでしょう。晩酌のビールの銘柄、決まっていませんか。同じ味わいを毎日囗にしていると、ほかの銘柄を飲んだときに『泡の刺激が強い』とか『苦い』とか『濃い』とか、すぐに脳や舌が反応しませんか。ワインも同じ。

まずは好きな味わいを体に染み込ませ、それを自分の味わいの基準にする。それさえ持っていれば、ほかのワインを飲んだときに『うーん、いつもより酸っぱいな』とか『いつもより甘い感じが強くて、好きかも』と自分なりの感想を持てる。それが外食の際であれば、『2杯目は、もう少し○○(甘い、辛い、酸っぱいなど)なワインが飲みたい』と、ソムリエやお店の人にリクエストすることもできるのです。

ひとつのワインをしばらく飲み続ける。これは、自然と好みの味わいを身につける簡単、かつ近道。ね、ワインは難しくなんかありません。

そしてその判断軸を増やしていくことで、ワインの経験値がどんどん上がっていき、『今日は赤』『明日は白』さらには『重たい赤が飲みたいから、肉を買おう』『酸味のある白ワインだから、さっぱり系の鍋にしよう』などと楽しみが広がっていくのです。」